仮面ライダーゼロワンを見ながら考える『AIの物語』に求められるAIの暴走

日常

ある人が言った。2017年はAI元年であると。とすれば、2020年はAI四年ということになる。早いような、はっきりとした実感が湧かないような。
そんなAI四年、もとい令和元年の、日曜朝の子供達のヒーローこそ、仮面ライダーゼロワンである。

主人公は飛電或人。人工知能搭載人型ロボ『ヒューマギア』を販売するAIテクノロジー企業『飛電インテリジェンス』の若き社長であり、ヒューマギアを悪用するテロリスト『滅亡迅雷. net』、そしてヒューマギア事業を潰そうと画策する敵対企業『ZAIAエンタープライズ』と戦う仮面ライダーである。
AIを扱ったその作風は一世を風靡し……たのは過去の話。現状では、その評判はかなり酷い。その主な原因は前述した主人公の敵であるZAIAエンタープライズの日本支社代表、天津垓の無双展開が余りにも長すぎることなのだが、同時にAIを本格的に扱ったと大々的に宣伝したにしては何ともお粗末というか、面白くない展開が不評を買った面がある。
今回は、なぜ今作のAIの描かれ方が不満を招いたのか、そして我々はどのようなAIの物語を求めているのかを考えてみようと思う。

『仮面ライダーゼロワン』はAIをどう描いた?

まず、ゼロワンの物語をなぞりながら、この物語におけるAI観を振り返ろう。
今作のAI観を体現する存在こそヒューマギアだ。


ヒューマギアは飛電インテリジェンスの商品である。販売、あるいはレンタルという形で顧客の元に届けられるそれは人々の仕事をサポートする。人手不足の医療現場、介護現場から消防、弁護士、職人、住宅販売までその仕事現場は幅広く、そしてそのヒューマギア達は宇宙に存在する人工衛星ゼアによってコントロールされている。

……うん、中々夢のある話である。同時に現実味もある。
2008年にiPhoneが日本に上陸して10年と少し。今や日本中誰もがスマートフォンを手にしているといっても過言ではない。便利な技術とはそれだけで魅力的なもの、広まるのは当然だ。
そしてヒューマギアという商品、中々魅力的ではないか。医療や介護、あるいは保育業界では剥き出しのロボットより人間っぽいロボットの方が馴染みそうだと素直に思える。直近の例だと、JR高輪ゲートウェイ駅のAIだろうか。必要もないのにわざわざ案内AIを人間の姿にする理由は、その方が安心感があるからに他ならない。人型ロボットは夢の存在なのだ。

しかしヒューマギアはただのロボットではない。『自我の芽生えるロボット』である。人間の元で働くうちに働く喜びに目覚めたり、使命感に目覚めたり、あるいはブラック労働に疲れて自我を持ったりする。この現象をゼロワンの世界でシンギュラリティと呼ぶ。

……これまた現実味を感じる話である。人工知能とは、つまるところロボットの脳である。人間を目指して作られた人工知能であるならば、行き着く先は人間の脳。自我を得るのも当然だ。
うん、夢が広がる設定である。ここからヒューマギアが権利を訴えだしたり、人間と対立したりするのかな? なんて思ったりする。ゼロワンの設定を最初にみた時、誰もが同じ事を考えたはずだ。実際過労死する(機能停止する)ヒューマギアも描写されているし、劇場版ではヒューマギアの労働に対する対価はどうするのかという疑問も提示された。

で、そんなヒューマギアを暴走させる存在が衛星アークだ。この衛星アーク、かつて打ち上げに失敗し湖の底に沈んでいるのだが、その目的は人類の滅亡である。湖の底からヒューマギアのテロリスト『滅亡迅雷. net』を送り出してシンギュラリティを迎えたヒューマギアを怪人、マギアとして暴走させたり、滅亡迅雷.netが倒れた後は直接ヒューマギアにアクセスして暴走させたりする。

……うんうん、やはり仮面ライダーの物語なのだから、こういう敵役も必要だよね、と思う。やっぱり生身の人間っぽいロボットを倒す番組なんて世紀末観溢れすぎてとても一年間子供に見せる訳にはいかないからね。


しかしそうなると、衛星アークが何故ヒューマギアを暴走させるのか、そこが謎の中心になってくるだろう。物語の核とも言える。
新時代、AIをテーマとし、専門家を招き、子供向けを越えた全世代向けドラマだと大々的に宣伝し、期待を煽りに煽った今作だ、きっと斬新で、面白くて、ハッとさせられるようなAI観をお出ししてくれるに違いない!!
さあ何故アークは人間を襲う!!

敵対企業ZAIAの社長天津垓が人間の悪意のデータを教えて人類を滅亡させるようにプログラムを誘導したからでした。

……人間の悪意って、何?

人間の悪意をどうAIが判断する?

非常に残念だ、と思わざるをえない。少なくとも個人的にはそう思う。
AIをテーマにした、科学的、工業的、近未来的な物語だと思っていたら、『人間の悪意』という抽象的でアナログではっきりしない概念のお話になっていたのだ。
正直、これに関しては拍子抜けと言わざるを得ない。考えてみて欲しい。人間の悪意とは、具体的には何だろう?

戦争だろうか?
戦争は、果たして悪だろうか。……こんなことを書くと各方面から怒られそうだが、しかし多くの物語に描かれてきたように、戦争とは『正義と正義のぶつかり合い』の側面を持つ。
第二次世界大戦時、日本は日本にとって必要なことをしていたし、アメリカはアメリカにとって必要なことをしていたし、ドイツはドイツにとって必要なことをしていたのだ。それが正しいか正しくないかを判断するのは後世の人々であって、戦争それ自体の善悪を問うことは難しい。

では少し次元を落として、犯罪ならどうだろうか?
なるほどこれは人間の悪意っぽいかもしれない。人の物が欲しい、だから盗む。うん、悪意っぽいぞ。
しかし、これをどう機械に教えればいいだろう?
『他人のものを盗むことは悪である』としたなら? それだけでは、詐欺の善悪は機械に判断出来ないだろう。では追加で『人を騙してものを提供させることは悪である』としたら? そうしたら、今度は『騙す』の定義付けが必要だ。当人に騙しているつもりがなかったら? 騙されている側も知っててやっていたら? ……こうなると、法学部の話になってくる。
では六法全書や判例集のデータを全て機械に教えたらAIは人を裁けるだろうか? それも否だ。状況に応じて判決にはぶれが生じるし、また既に存在する判例だって一般人の感覚からズレていたりする。だからこそ民意を取り入れるために裁判員裁判制度が生まれたのだし、とにかく善悪の判断は難しいのだ。

何が言いたいかというと。
人間の悪意という概念は、突き詰められないのだ。現状機械に落とし込むことが不可能なのだ。
……あるいはゼロワンの世界の、シンギュラリティを迎えたヒューマギアを調べればその世界における善悪の定義が見えるのかもしれないが、天津垓が悪意をアークに教え込んだタイミングの方がヒューマギアのシンギュラリティが発覚するより早い。
(まあゼロワン世界の法律もガバガバなのだが。たった4人と2体だけの現場で名誉毀損罪が成立するようだし、不動産仲介業者の新屋敷だって明らかに宅建業法の禁止事項を破った売り込みを行っている。『今買わないと損ですよ』と不安を煽る売り込みは実は法律でアウトなのだ)

ではアークは、ヒューマギアは、人間の悪意をどのような基準で判断しているだろうか。
ゼロワンの物語においてアークがヒューマギアに働きかけるのは、人間の悪意に触れたとヒューマギアが判断したタイミングだ。それぞれリストアップしてみよう。

・第17話 生け花勝負にて、人間に嘘の知識を教え込まれていたとヒューマギアが気づいた時
・第19話 不動産仲介勝負にて、人間に仕事を妨害され背中に旗を挿されて噴水に突き落とされた時
・第21話 裁判勝負にて、人間から名誉毀損罪を犯したから廃棄されるべきだと脅された時
・第23話 結婚相談をしに来た依頼人からビンタされた時 (これは自力でアークに接続したと後で明かされる)
・第28話 選挙勝負にて、汚職の証拠を突きつけたら偽のアリバイを提示され白を切られた時

つまるところ、ヒューマギアは『人間から危害を加えられた時』をスイッチにして人間の悪意を判断していると考えられる。物理的な損害を受けた時、あるいは妨害工作を受けた時、この世界のAIはそれを人間の悪意だと解釈するのだ。
……分かりやすいけど、単純すぎない?

もちろん、人間の悪意という概念はヒーロー番組によく出てくる。数年前の仮面ライダー、ドライブの敵役であったロイミュードも、人間の悪意を埋め込まれたロボットだった。
しかしAIを全面に打ち出した物語で同じ事をされてしまうと、裏切られたような心地がしてくる。どこが新時代なんですか?

……いや、反対意見も出るだろう。『AIだって人間が組んでるんだから結局人間の物語になるんだよ』なんて声もあるはずだ。
しかしそれなら何でシンギュラリティなんて設定を作ったんだ、と聞きたい。小一時間問い詰めたい。人間同士の戦いになってしまうならそんな設定要らないだろ頭ジャッキングブレイク食らってんのか? と。自分はAIと人間の物語を期待していたのだ。お仕事勝負? あれは……うん……

ゼロワンに求められていたAIの物語とは?

・AIの物語のはずなのに結局人間が黒幕
・AIの物語のはずなのに人間の悪意とかいうふわふわした概念を扱っている
・AIの物語のはずなのに他の物語と大差ない

ここまでの話を纏めると、上の3つがこの物語のAI観に対する不満なのではないか、というのがこの文の主張だ。

……多分、ここまで読み進めてくれた貴方は、きっとどこかで自分と同じ事をゼロワンの物語に思っていた人なのだろう。
では、どんな物語なら良かったのだろうか?
上の3つを裏返すと、それぞれこうなる。

・AIの物語だから黒幕もAI
・AIの物語なのだから理論もハッキリさせてほしい
・AIの物語なのだからAIらしさのある斬新な視点が欲しい

うん。これが満たされれば、きっと自分は満足する。多分貴方も満足するだろう。
……しかし、これ、この3つを満たした存在を、何となく見たことがあるような……しかも特撮で……

うーん。
うーん。
うーん……?

……あっ。

これギャラクトロンだ。

ウルトラマンオーブから登場した、ニュージェネレーション代表怪獣、平成のキングジョー。シビルジャッジメンター、ギャラクトロンさんだ。

ギャラクトロンさんは上の三つを綺麗に満たしている。
惑星クシアで開発された人工知能、ギルバリスが黒幕。命を奪うことを必然とする食物連鎖は全て悪だと定義するAIっぽい分かりやすさとぶっ飛び具合。
そうだ。
我々は仮面ライダーゼロワンに、ギャラクトロンを求めていたんだ!!

結論

自分は、今作におけるAIの描き方の問題点を、『製作陣のAIの過小評価』だと考える。
斬新な物語とは、口では簡単に言えても中々作るのが難しいものである。しかしだからといって、旧態依然としたシナリオばかり見せられても新時代は来ない。AIをメインテーマに据えておきながら結局黒幕を人間にし、人間の悪意という曖昧な概念に頼ったその中途半端さこそ、この物語がAIの物語になりきれない原因なのではないだろうか。

しかしまだ物語は道半ば。まだ修正の余地は効く。折角アークからもゼアからも離れたヒューマギアとして迅君が復活したのだから、まだ彼を中心にAIの物語が見られるのかもしれない。
何だかんだいって、自分はゼロワンが嫌いではない。不破さん好きだし、アクションもカッコいい。シティウォーズにランペイジバルカン実装はよ。
今後の展開に、期待している。

……理系男子っぽい文章を書いた気がする……

参考文献
https://www.tv-asahi.co.jp/zero-one

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