超新星ベテルギウス 没シナリオ1

ビジュアルノベル制作

音楽性の違いで書き直しになった没シナリオ第一話

これはこれで好きなんだけどな……

───

人生っていうのは選択の連続だ。

その時には絶対正しいと思っていたことでも、後から考えるとどうしようもなく間違っていたな、なんて思うことがある。

俺に関して言うのなら、それはちょうど今だった。

諭「──ウチの社長になってくれ」

章介「……なんで?」

神崎章介25歳。なんかよくわかんないことになってます。

諭「頼む章介ッ……お前しか、お前しかいない……!!」

諭「社長ッ……!!」

章介「いやいやいや」

章介「俺、専属モデラーとして雇われたんだよな? そういう話だったよな?」

ことの始まりは2週間くらい前だったか。

元々3Dエンジニアとして勤めていたスタジオが倒産、俺は路頭に迷っていた。

そんな時に助け船を出してくれたのが目の前で頭を下げてるこいつ、林道諭だった。

その時聞いた話を思い返す。

こいつの父さんが確か、ホームページ作成代行だったか、アプリ制作だったか……

とにかくそんなことをする小さな企業『ベテルギウス社』を立ち上げて。

で、その企業が最近ではキャラクターイラストに声優をつけてライブ配信を行うバーチャルライバー事業にも手を出して。

それが軌道に乗ってきたからイラストを3D化したい、そのために俺を雇いたいって。そういう話だったはずなんだ。

断じて、俺を社長にするなんて頭ブッ飛んだ話では無かったはずなんだ。

章介「第一お前お父さんはどうしたんだよお父さんは」

諭「それが……」

諭「……我がベテルギウス社は、社長から技術スタッフから雑務まで、俺とあと1名を残して、交通事故で、全滅しましたっ!!」

章介「……はああああ?」

 

<(アイキャッチ、あるいはOP)

 

章介「確かにさ、怪しいとは思ったよ」

章介「なんかいきなり理由も言わずに今は会社に来るなって言われたし。めっちゃ放置されてたし。そのくせ一応お金は入ってきたし」

章介「怪しかったけどさぁ……」

辺りを──初めて入ったベテルギウス社の中身を見回す。雑居ビルの中の一室、小さな部屋だ。

まだ外は明るいはずだというのにカーテンも閉めきられた、蛍光灯が煌々と照らす部屋は、あんまりにもがらんどうだった。

諭「放置してた件は、すまなかった。色々大変だったんだ。事後処理とか」

諭「でももうそこら辺は何とかしたから大丈夫だ社長、安心して社長になってくれ社長」

章介「1ミリも安心できねぇ……」

章介「そもそもだ。そもそも、何で俺なんだよ。お前がやれよ社長」

諭「俺には無理なんだよ!!」

章介「じゃあ俺にも無理だよッ!!」

諭「落ち着こう? な? 頭冷やそう。な?」

章介「頭沸いてるのはお前の方だよ」

林道はそう言いながら、テーブルの上にパソコンを出した。

2、3度くらいクリックすれば、画面にベテルギウス社ホームページとおぼしきものが表示される。

<(セリフウィンドウの上にパソコン画面に表示するみたいなイメージ)

ベテルギウス社公式サイトへようこそ!!

ベテルギウス社は、昨今急成長を遂げるバーチャル技術を用いて新時代のエンターテイメントを牽引する総合WEBクリエイター企業です!!

・キャロライン花咲、オーロラ・ベルベット、シャボン ユメの四名を擁するバーチャルライバーグループ『Xジェネレータ』をプロデュースしています!!

・Ourtube、ニカニカ動画等でのバーチャルライバー番組に参加しています!!

・ホームページ作成代行サービスを行っています!!

<(ここまで)

章介「総合WEBクリエイター企業って何だ?」

諭「わからない……」

章介「わかんないか……」

……いややっぱダメだって。

これヤバいタイプの泥船だって。何こいつ、こんなのに俺巻き込むつもりだったの? こっわ。いやこっわ。

流石に失職したとはいえこれは流石にないわ。俺だって仕事を選ぶ権利くらいあるし。いや怖いじゃんこれ、無理でしょ。

章介「じゃあ俺はこれで……」

諭「待って待って待って行かないで止まれ」

諭「落ち着いてくれ。ステイ。ステイ」

諭「とりあえずうちのタレントと顔合わせしよう? な? 呼んでるから。新しい社長が来るって呼んでるから」

章介「決定事項なのかよ」

諭「お前がいないといよいよ詰むんだよ」

章介「無茶苦茶だな」

諭「まあ取り敢えずウチのライバーのデータ、作ってあるから」

冷や汗をだらだらと垂れ流しつつ、林道はそう言いながらまたパソコンを操作した。

どうやらホームページから移動して、各ライバーの紹介画面に飛んだらしい。

 

<(セリフウィンドウの上にパソコン画面に表示するみたいなイメージ)

シャボン ユメ

15歳   おとぎの国在住

身長145cm   80:58:79

Xジェネレータの一員。可愛いものが好きな女の子。

<(切り替え、普通の背景)

諭「……どうだ」

章介「どうって何だ」

諭「やる気になってくれたか社長」

章介「いやいやいや」

章介「テキスト少なすぎない? これだけ? 情報量黒板の右端の日直欄レベルかよ、もっとやる気出せやる気」

章介「そのくせなんで身長とスリーサイズは乗ってるんだお前」

諭「ウケるかなって……」

章介「……次は?」

諭「はいはい」

<(切り替え)

キャロライン花咲

17歳   星堂学園高校二年生

身長158cm   90:65:88

Xジェネレータの一員。歌うことが大好き。

<(切り替え)

章介「こっちはもう3Dモデル出来てるのか」

諭「そうだな」

相変わらず情報量が少ない。

というかこれだけの情報で3Dモデル作れるわけないだろ。後で動画見ろってことかな……めんどくさいな……

林道は俺の顔色を伺いながら……パソコンを閉じた。

章介「……え、終わり?」

諭「はい」

章介「いやいやいや冗談は現状だけにしとけよお前」

章介「二人でグループを名乗るのはおかしいよお前。それはグループじゃない。な?」

諭「もう一人が死んじゃったんだから仕方ないんだよ……」

章介「嘘だろ……」

諭「元々、雑務と兼任でタレントやってた他人だったんだよ。それが……」

章介「ああわかったわかった、大丈夫だ無理に話すな」

章介「でも、もうちょっとさ、募集とかかけないの? ライバーにしろスタッフにしろ。少なすぎるだろ」

絶対無理だって。俺のいたスタジオだって、20人くらいいたけど普通に潰れたからな? 

俺含めて3人でやってけるわけないだろ、しかも俺が社長とか。

ありえねー。ありえねーよ、本当に。死ぬって。

とはいえ俺の質問は林道も想定内だったらしい。苦虫をぐちゃりと噛み潰したように呻いて、彼はぽつりと呟いた。

諭「……流石に俺も、3人で会社が回せるなんて思わないさ。だから人もこれから雇うつもりだ」

諭「ただし大っぴらに求人は出さないし、会社の現状の公開もしない。そして新しい社員も可能な限りテレワークで使う」

章介「……それは総合WEBクリエイター企業アピールか何かか?」

諭「まさか」

諭「神崎。ここはアイドルの事務所だ。アイドルの事務所がスタッフを募集したとき、誰が一番に来ると思う?」

諭「ファンだよ」

諭「『俺ならもっと上手くプロデュースできる』なんて勘違いした熱意に燃えるプロデューサー気取り」

諭「そんなファンが真っ先に押し寄せてくる」

諭「もちろん、社長含め社員殆どが全滅したなんて知れ渡れば大騒ぎだ」

章介「それ不味いのか?」

諭「不味いさ」

諭「まずあいつらはファン目線でしか物事を見たことがない」

諭「金銭的な問題も、スタジオの問題も、機材の問題も、何にも解っちゃいない」

諭「……エンターテイメントってのは顧客を騙すものだから、それで正解なんだが」

諭「それにな。アイドルのファンがアイドルに近づいたとき、そこには必ず下心が入り込む」

章介「……そうとも限らないだろ」

諭「いや限る。絶対だ」

諭「奴らがスタッフになろうとするなら、必ずそこには推しとお近づきになりたいという欲望がある」

章介「そうだとしても、別に本人同士の問題だろ」

諭「違う違う。甘いよ神崎」

諭「アイドルは、特定の誰かと近づいちゃいけないんだよ。誰のものでもないからアイドルなんだ」

諭「プロデューサーとアイドルの恋愛なんて言語道断だ。商品価値を下げる愚行でしかない」

章介「あー。まあ、それは、そうだな……」

随分な熱の籠りようだ。眉間に皺が走り回っている。

……何か、嫌な思い出でもあったんだろうか。こわい。

諭「まあそういう訳だから」

諭「俺は会社を少人数で回したいし、追加の連中もおかしな真似をしないか監視する必要がある」

諭「だからこそ、社長としての仕事はお前にやって貰いたいんだ、神崎」

もう一度部屋を見回した。よくよく見たら、閉めきられたカーテンはガムテープで固定されていた。

万が一にも人員不足がバレないように、ということか。室内は明るかったが、どうしようもなく静かだった。

<(ノックする音)

諭「と、もうついたみたいだな。入っていいぞ」

<(二人スライドイン)

会社入り口のドアが開いて、女の人が二人入ってきた。

林道はさっき、タレントが来るって言ってたよな。つまり……

章介「……この二人が?」

諭「そうだ。この二人が、現状のウチのバーチャルライバーだ」

紗栄子「一輪紗栄子です」

史佳「お世話になってます、高畑史佳です」

そう言いながら、二人は同時に頭を下げた。

一輪紗栄子さんと、高畑史佳さん。なるほど。

……どっちがどっちだ?

えーと……さっきのキャラクターの、身長で考えると……こっちがキャロラインさんかな?

章介「えー、と。……こっちが、キャロラインさんの?」

紗栄子「いえ、キャロライン花咲は私が演じてます」

史佳「私はシャボン ユメですね」

逆だったか……

諭「で、彼が新しく社長になってくれる神崎章介だ」

章介「いやまだだから。まだやるって言ってないから」

史佳「……あの、社長さん」

章介「だから社長じゃありませんってば」

史佳「中学校、どこでしたか?」

章介「中学校? ……東中学校ですけど」

なんでいきなりそんなこと聞くんです?

史佳「あやっぱり? 章介じゃん、覚えてない私のこと?」

章介「……」

章介「……」

章介「……あああああ!!」

言われて思い出す。

確かに何となく聞き覚えのある名前だった。ああ、高畑さんか!! なんか雰囲気変わってたから気づかなかった!!

諭「何だ、知り合いか?」

章介「いや、小中学校一緒だったんだよ」

せっま。世間せっま。なんでここで偶然同じ中学校の人に逢うんだ。しかも高畑さんと。

いや懐かしいな……懐かしいけどさ……

えー、何だ。

ちょっと、気恥ずかしいな……

史佳「久し振り!! えっ、久し振り!! 元気だった!?」

章介「ははは現状は全然元気じゃないな!!」

差し出された手を握り返して互いにブンブンと振ってみる。

多分昔は別段ここまで親しくはなかったと思うけどまあいいや。ノリだノリ。

はははははは。楽しいな!! 

史佳「やばー!!」

章介「ははははは!!」

諭「……」

章介「……何見てんだお前見せもんじゃねェんだぞ」

諭「……これはもう社長になってもらう他ないな?」

章介「あっ」

忘れてた。

慌てて握っていた手を引こうと思ったけどなんか離してくれない。

強っ!! うわ力強っ!! そうだよね君バレー部だったっけね!!

章介「あのっ、離してっ、あっ、あのっ」

史佳「……お願い?」

諭「……お願い?」

章介「何で林道までやるんだお前っこの、っ、あっ離れね、離れね!!」

紗栄子「なんか私抜きで話が進んでるわね……お茶用意するわ」

 

<(暗転)

章介「……わかったよわかった、やるから」

史佳「やった」

諭「決まりだ」

根負けしました。

林道の差し出してくる書類にサインし終えて、十分くらいの間握られ続けた指を擦る。手汗でべたべただぁ……

まあ。観念したよ、俺も。

ここまで頼まれて断るほど頑固でもないし、そもそもここを出ていったら無職に逆戻りだし。うん。仕方なかった。

諭「いや本当にありがとうな神崎」

諭「ちゃんと給料は出すことを約束しよう。社長待遇だぞ社長待遇」

諭「……潰れない限りはな」

章介「最後のそれ笑えないからやめろよ……」

章介「……で? 俺の仕事は何なんだ。俺社長の仕事なんて全然知らないぞ、モデラーなんだから」

諭「あー、現状の主な仕事は、シャボン ユメの3Dモデルの制作だな。さっきイラスト見ただろ」

史佳「私だよ私!!」

章介「わかってるわかってる」

章介「で、納期はいつまでだ?」

諭「……11月末には」

章介「11月末?」

諭「おう」

章介「……」

章介「……なあ、今って10月だよな?」

諭「10月22日だ」

章介「無茶言うなよ……っ!!」

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