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【感想】綺麗すぎる<U>の世界『竜とそばかすの姫』

レビュー

仮想世界<U>が綺麗すぎる!

この一言に尽きる。

3Dベースの仮想世界は現行技術との距離が近い故に独特の雰囲気を出していて面白い。反面、細田作品の多キャラの立て方の上手さや『サマーウォーズ』や『バケモノの子』のガヤガヤが好きだったので、ベルの繊細な表情変化を魅せる意図は分かるけれど引きとアップの構図が多く大量のアバターによるガヤガヤ感が少なかったのはちょい寂しい。

それと途轍もなく純真な脚本。「ネットの声」の言葉選びからも心根の良さが滲み出てて複雑な感じ。配信という形で顔を出している描写が多く、仮想世界の匿名性から来る二面性はまずない。SNSだから他者への配慮がなくなり自己主張を第一とするといった毒もない。

仮想世界<U>では社会が機能し多くのアバターが並んで泳いでいる。SNSを現実と切り離した世界ではなく、もうひとつの現実世界として捉えている節がある。だから良し悪しでなく思想の問題で世界の見方の問題。細田守脚本は自分には眩しすぎるほどピュアだ。

この物語、びっくりするほど丁寧に全部喋ってくれるので言葉足らずに思える部分がない。理解しにくいとしたら場面転換くらいか。

その中で生々しさを感じて好みだったのはすずの親友ヒロちゃんと<U>の自警団長ジャスティン。

ヒロちゃんはすずを同類として見ている側面があって、そのすずがベルとして成り上がっていく姿に高揚感を得ている。陽キャ集団を蔑んでいることから反逆的な意思が含まれているかもしれない。周囲と違って一人「歌えるわけがない」と言った立ち位置から『現実では歌えない存在であってほしい』という臭いがした。

ジャスティンは自己肯定感が低く、自分を肯定するスポンサを事あるごとにひけらかして反対思想には自分の正しさを暴力を持って強要する。めちゃくちゃ分かりやすいキャラクタだ。否定されるものでもないからスポンサが離れる以外に罰は受けていない。明示はされてないけど竜の父親でしょ彼。自己を曝け出した上で世界に認められたすずには抗えず、ある種の恐怖対象になってることからもキャラクタ性が一致してる。

ストーリーも大枠として綺麗でメッセージ性としても綺麗。過去作を彷彿とさせる描写や『美女と野獣』を強く意識した演出も面白い。ペギースーの表情や動きなんて遊びまくってる。

すずの決断は前の描写から呑み込みやすいものになっていて良い。母を理解できた上で唄うのではなく、唄ったから母を理解できたのも心地よい。行動を起こしたからこそ報われている。

その点で竜探しで唄が決め手になったから回想まで交えた推理パートが丸々茶番になったことと、竜の居場所の特定材料が配信を切る以前で完結していて「もう一度信じよう」と配信を入れ直した行動が報われなかったのは残念。

アンベイルの光で周囲のアバターも自己を晒してアンチが口を塞ぐみたいな毒は流石にない。どちらの世界でも有名人になったすずは今後大変だろうけど蛇足になるから(以下略)。

全体として間違いなく良作だし、現実問題として難しい事でも社会規範に即しているから綺麗、ただし毒はないといった総評。雲から後光が差している対比描写はエモい。

最後に、

「どうせ竜はしのぶくんなんだろ」とか高括ってすみませんでした!

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