作品概要
原題:The Shutter Island
監督:マーティン・スコセッシ
主演:レオナルド・デカプリオ
制作国:アメリカ
公開年:2010
配給:パラマウント・ピクチャーズ・コーポレーション
あらすじ
レオナルドデカプリオ演じる保安官のテディ・ダニエルズと相棒のチャック・オールはある孤島の精神病院を訪れ、一人の女性患者が失踪した事件について取り調べる話である。精神異常犯罪者が収容されるその病院は、島ごと隔離され、明らかに暗く不穏な空気に満ちている。取り調べをしていくが、どうも口裏を合わせたようで、病院自体へ疑念が募っていく。やがてテディは病院の裏で恐ろしい計画が進んでいたことを確信していく。
映画の所感
全体に満ちる非常に不穏な空気感と登場人物たちへの不信感を感じながら推理を固めていくサスペンス映画だった。映像からあふれる精神病院の嫌な空気感、職員や他の患者たちの言動に対する違和感だけでない。主人公にも何やら過去に事情があるようで、主人公の過去と病院の隠し事を同時にたどっていくのだが。嫌なストーリーが自分の頭の中で組み上がっていくと共に、主人公が無事にこの島から出られるのかという緊迫感が膨れ上がり、次第に疑心暗鬼と違和感に翻弄され、思い込んだ真実と現実との矛盾に混乱しながら、真相の仮説を組み替えていく楽しさがあった。全体の作りは優しく、明らかな矛盾や違和感が各所に見られ、幻覚と現実を区別する統一したモチーフがあり、また重要な要素は反復して出てくる。そういった所を主軸として見ていくと、ちゃんと終盤に真相を知った時の納得感が得られたのもよかった。
以下ネタバレ込み
僕自身はテディに感情移入して見ていたので医師たちは悪役に見えたし、後半急展開に思えた。個人的に面白かった体験は陰謀論的なアイデアはスパイスの効いていてついついそのアイデアにのめり込み、その筋道に合わせて現実の情報を当てはめて言ってしまうことだ。どう考えてもおかしい、引っかかっている情報は確かにあるが、それよりもそのアイデアに捕らわれてしまうとそこに沿って情報の重み付けをついつい行ってしまうと言う体験があった。こうやって認知は簡単に歪むんだなというのがツボだった。別作品で似たような体験をしたが、露骨な矛盾さえ軽く見てしまうという経験とはちょっと違った。
とはいえ、それでも理解が追いつくことができたぐらいには親切だったといえるだろうし、露骨とも言える。ネタばらしの瞬間は信じたくないと思いながらも今まで見てきた映像を思い返せば信じるしかなくなる。その自分の視点を強い力で無理矢理一気に転換される、混乱と共に視界が晴れる(と言うよりも認知のゆがみ、視野狭窄を認知する)感覚が個人的に楽しいので気持ちが良い。
問題はこの後のシーンだと思う。グッドエンディングともバッドエンディングともとれない絶妙な終わり方に感じた。僕はただテディーに感情移入してしまっていたので、彼が手術を受けてそれまでの純粋な彼は消えてしまう、精神のあり方を人為的、物理的に変容させられるというある意味でのキャラロストだと感じ、それが悲しいと言うのが第一印象だった。彼は真実に気がついていてその選択をしたのか、はたまた本当にそのアイデアにしがみつき続けてしまっていたのかは断定できない。後者だとすれば、本人にとっては夢の中で死ねると言う意味である意味幸せなエンド(我々目線では救いのない)だと思うが、やや薄味な気がする。ゲーム的なエンディングとしては好きな後味の悪さだけど。
やっぱり前者だとなかなか面白いよなと思う。彼が本当に強い正義感を持つ人間だというのを示しているのだろう。正義感で妻を殺し、正義感が妻殺しの自分自身を否定し、歪んでしまったと言う経緯もあり、周囲に危険をもたらすこと、自分が歪んでしまっていることを認知した結果、その状態で今の自分を生かすよりも、自分の意思で死を選ぶという選択をする。ある意味正義感の強い彼が本当に帰ってきたというキャラクター性としても、ストーリーの山場としても象徴的なシーンだったのだろうなと思った。うーん。もどかしいね。
まとめ
陰謀論という刺激的で甘美なアイデアに作陶しながら認知を歪ませ、それをひっくり返される体験。もどかしい後味の残り方が個人的なツボだった。ただ、見る人や見る時の状態によっては白けるかも知れない露骨さはあるが、一人でもアイデアにとりつかれれば(もしくはテディに感情を没入させながら見れば)かなり面白いんじゃないかと思う。
運良く僕はアイデアに惹かれてしまったので面白かった。映画の雰囲気の作り方が良く、不穏な空気感と緊張感のうねりが作品全体によく行き渡っていたと思う。最後大きく視座の転換はあるが、非常にわかりやすいヒントが散逸するので割と誰でもみて楽しめるんじゃないかと思った。
(サムネイル:不明 – La première capture d'écran HD (25 décembre 2012)., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=38726053による)
コメント