潜伏期間の確率密度を利用して感染時刻をノンパラメトリック推定する逆計算をしています。おそらく次週末を目処に説明会見つきでRの推定コードを出せるかとは思います。 https://t.co/nLdC0KdAr7
— Hiroshi Nishiura (@nishiurah) May 2, 2020
感染者数を推定する新たな数理モデル:発症日からの推定
正規分布モデルの問題点
前回紹介した正規分布モデルですが、問題点がありました。
以下にその理由を述べます。
確定日-発症日の分布を考慮していない
感染者数推定の新たなモデル:「確定日-発症日」確率×潜伏期間確率
正規分布型の問題点を解決し、より実際の感染者数像に近いモデルを作るために、今回は発症日分布型で用いた「確定日-発症日」確率密度に潜伏期間の推定確率密度(正規分布を用いる)を掛け合わせ、「確定日-感染日」の推定確率密度を導出し、これをパラメーターとして感染者数の推移の推定をしていきます。
「確定日-感染日」の推定確率密度を導出する
まずこれが「確定日-発症日」の確率密度です。
緊急事態宣言の効果検証:推定感染者・推定発症者の推移・増加率から考察する
さてここからは、推定感染者数・推定発症者数両方の推移・増加率を用いて、4/7に出された緊急事態宣言とそれに伴う行動変容がどれほどの効果を上げたか検証していきます。
日本全体(東京を含む)
凡例ですが、オレンジが前回から使用している発症日分布型、黄色が今回紹介した感染日分布型の値になります。
まずは推定される感染者数と発症者数の推移を見てみましょう。御覧の通り、流行のトレンドは感染者数→発症者数→陽性確定者数の順に推移します。そして、統計上、その逆の順に推測がしにくくなります(実測値から離れたトレンドは推測しにくいため)また、感染者数が4/11、発症者数4/20までと途中で終わっているのは、それ以降を推測するデータがまだ存在しないためです。
見たところ、感染拡大及び発症拡大のピークは過ぎているように思われます。しかし、行動変容の効果を検証するには、感染者の増加率がどれほどのペースで下がっているかが重要になるので、増加率のデータを見てみましょう。
縦棒は非常事態宣言が出された4/7を指しています。まず感染者についてですが、緊急事態宣言はそこまで大きな影響を与えていないように思われます。対して発症者数は顕著に減少しています。
前回も述べた通り、行動変容がもっともはやく表れるのは感染者数のほうであり、発症者の顕著な増加率減少をもって行動変容は効果があったと断言することは早計といえます。また発症者増加率は実測値の影響が大きく、感染拡大のトレンドを判断するにはやはり感染者増加率のほうが適していると考えられます。
しかし感染者増加率に関しても1以下を継続して下回り、減少傾向にあるのは好ましい結果だといえるでしょう。
なお感染者や発症者の推移を近似すればもう十数日後には全国の新規陽性確定者も二桁で安定し始めると考えられますが、どうなるのでしょうか。
東京
東京も同様に感染拡大のピークは過ぎ去ったように感じられます。しかし、全国の推移と異なり、やや増加率の減少は遅い傾向にあるようです。
増加率についても見てみましょう。
やはり増加率は発症者、感染者ともに全国よりもわずかに高い数値で推移しており、感染者推移が1以下で推移している点は好ましいものの、発症者推移では1に迫る日もあるなど、予断を許さない状態であるといえるでしょう。
また、感染者推移では非常事態宣言の効果が全国よりも薄いと感じられるのも、東京の特徴です。
個人的には東京のみが自粛・休業要請を延長して行うというシナリオも十分考えられると思います。
まとめ
今回は二つの数理モデルを用いて感染者数と発症者数が実際どのように推移しているのかを推測してみました。
厚労省が5/6にPCR検査の基準を変更したことなどもあり、これからのデータに関しては既存のデータとリニアにつなぐことが難しくなると考えられますが、継続して検証を続けていきたいと思います。
緊急事態宣言とそれに伴う行動変容が機能したかを検証することは、それをやめるうえで重要です。吉村知事が大阪モデルと称して自粛解除のための出口戦略を提示して話題になりましたが、出口戦略を考えるうえでは統計的な解析や疫学的な見地が不可欠であり、さもなければ予期せぬ事態の悪化を招くのみです。
ですが、これらのモデルを製作することで、皆様が日々の報道に一喜一憂せず、根拠を持って冷静に事態を静観することができるだけでなく、これから提示される「出口戦略」が果たして本当に正しい政策なのかを見極めることもできるようになるのではないか、と思います。
最後に数理モデルの実装データ(Excel)を置いておきます。参考までにご覧ください。
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