この作品は遊び心に溢れている。
ギャグシーンでもないのに笑みが零れる。口に出ていないかと心配になるほどの感嘆を覚えた。
まず面白いのは場面繋ぎだ。映画の撮影手法といったものに詳しくもないが、良い意味で既視感を覚える場面遷移にはニヤニヤする。雨の中運転する車のワイパーによる場面転換、すれ違う二人の相対位置を固定したカメラ変更、本を開いて画面を分割し本を閉じて戻すといった演出、同系のリアクションとトリガーとした巻き戻しによる時間軸遷移、フォーカスによる遊びや視線誘導などなど。次はどう魅せてくれるのかという楽しさがある。
日常を切り取るジーンの瞳はカメラレンズで、カット編集を剣のように見立てるといったアニメ媒体だからこそ映える演出も楽しい。冒頭シーンが山場で回収されるのも熱い。他にはバスからの街の景色や撮影の準備風景で画面にピントが当たらない、ぼかしとは違う独特な雰囲気に特異性を感じさせる。
鑑賞前はポンポさんのニチアサでも違和感の少ないビジュアルに好みが分かれるかとも思ったが、これが驚くほど煩くない。キャラは濃い、ただ煩く感じなかった。他キャラクターもバランスが良く捨てキャラがいない。
製作をテーマにした作品は今までにもいくつか見てきたが、基本的にそれらは完成までの成功と挫折、登場人物の関係性の変化を楽しむものだった。しかし『映画大好きポンポさん』はそこを焦点にせず、もっと普遍的な、「映画のこういうところに救われるよね」といった共感を呼び覚ましに来る。だからこそ撮影自体は滞りなく進み、編集作業、何を魅せたいかが主になる。成功に対する予定調和と所謂御都合主義を無視できる点で既に強い。
出資を巡った大立ち回りは現代だからこその解決手段であり、出資元となる銀行の対応も大枠はTV番組『スカッとジャパン』のようでありながら銀行のプロモーションを兼ねるという現実的な意図、含みを持たせることで展開を受け入れやすくしている。アランというキャラクターの追加によって物語がより普遍的な視野の広いものになった印象。まあ単純に展開が熱い。グッとくるやつ。ずるい。
監督ジーンが映画の主人公に自己を投影する演出もずるい。大物俳優のCVが大物声優なこともあって迫力は段違いだし映画の内外がリンクするあの感覚は映像媒体に少なからず救われた視聴者を突き刺しに来る。
個人的に最も刺さったのはやはり取捨選択に関して。二者択一に正解があり、両得できるような甘さはない。これがめちゃくちゃ好みだった。「手放さないために切る」、映画では音楽のために家族を切る、ジーンは見せたいもののために大切な映像を切る。これは過去を肯定し指向性の高い挑戦をも肯定してくれる。
ジーン初監督作MEISTERはポンポさんに響いた。共感と救いにうるっとする。この後の絶妙に長尺の暗転が大好き。何故だか心の置き場所を与えてくれたかのように思える。
最後、ジーン監督のインタビューで『映画大好きポンポさん』という90分の映画は幕を閉じる。締め方すら心地よい。どこまでも映画と映画内映画とリンクさせてくる。
本作はクリエイターを感化させる要素だけならず、映画の価値に対しても共感を持って思い出させてくれる。映画として楽しい映画だ。
二回目観に行くかも。近場で上映してないことだけ惜しまれる。
コメント