レビュー積雲

『ジョゼと虎と魚たち』現代的価値観による再解釈の妙が光る良作

レビュー

ネタバレ注意!

 

時に20201225日、クリスマスにも関わらず特に恋人もおらず下宿に引きこもっていた積雲は焦っていた。

積雲
積雲

二十歳のクリスマスはこれでいいのか?

しばらくの熟考の後、何をトチ狂ったか知らないが、彼は決意した。

積雲
積雲

ジョゼ虎、観に行こう。

ジョゼ虎とはアニメ制作会社ボンズによって製作された劇場アニメである。

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』公式サイト
アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』12.25ROADSHOW! 芥川賞作家・田辺聖子が描く、青春恋愛小説の金字塔が遂に劇場アニメ化!

原作は田辺聖子氏による同名の短編である。公開日は20201225日。読者の皆さんは=もうお気づきかもしれないが、青春恋愛モノである。聖夜を共に過ごしたカップルが愛を確かめるために作られたといっても過言ではない、青春恋愛映画である。こんなものをクリスマスで一人で観に行くなんて、自殺行為以外の何者でもなかろう。

しかしこの時の積雲は何を思ったか

積雲
積雲

まあありきたりな恋愛モノやし、カップルが啜り泣きしてるのを心の中で笑ってやろう。

みたいな気分になっていた。人として最低である。

と、まああまり期待せずに観に行ったわけですが、この作品、そんな偏見は吹き飛されることになる。

前置きが長くなりましたが、アニメ『ジョゼ虎』レビューしていきたいと思います。

あらすじ

PVがいい要約になっています。これの長尺が映画。

感想

恋愛映画としてのチューニングはあるものの、それを込みにしても丁寧に作られた良作。

障がいの不自由さに特化した構成

障害モノでありがちなのは安易な感動モノに仕立ててしまうこと。障害の苦しさや辛さ、あるいは社会からの圧にフォーカスし、そこに共感させるといったパターンが挙げられます。しかし本作は障害を扱っているにも関わらずそこに重点を置かなかったのが巧妙だと思いました。

車椅子で生活するヒロインのジョゼは生まれつきの障害で、歩けないことの不自由さは感じているようですが、それを苦しんでみたり、歩行能力の回復を強く願うこともしません。彼女にとっては歩けないこと自体は普通のことで、届かない本棚や高さの合わないキッチンのテーブルが『不自由』なだけなのです。

ジョゼというキャラクターが健常者が障がいを持ったらという視点ではなく、生まれつき障がいを持っていて、その状態で今まで生きてきた人物という視点であると考えると、これは極めて自然な描写のように思えます。

障がいに対する社会の反応に関しても、原作に比べてかなり毒抜きがされているように思えました。原作では車椅子を故意に押す人や、体が不自由なことにつけ込む人物などがいましたが、映画内ではそういった描写はオミットされたか、マイルドになっています。

この辺りに制作陣の再解釈の上手さ、丁寧さが光っていたと感じました。原作は1980年代で、今よりも障がいを抱えた人に対する当たりは強かったと思われますし、逆に1980年代の価値観で2020年の映画を作ったら観客は齟齬を感じるでしょう。障がいを軸に置きながらも、テーマを現代化し、ストーリーを再構成する。これをきちんとやったからこそただの恋愛映画の枠に収まらない良作になったのではないでしょうか。

主人公の視点

ジョゼがフラットな障がい者である一方、主人公はいわゆる「健常者が障がいに」という経験をすることになります。ここでようやく観衆も主人公と共にジョゼの境遇に共感することになるのですが、先に書いた通り、障がいにかんする共感を、ジョゼ本人からではなく、同じ境遇に堕とされた主人公から得るという流れはより自然でした。

ただの恋愛ではなく、お互いを知り、思いやる関係へ。

さらに主人公がジョゼに共感するだけでなく、深く思いやれる存在としてジョゼを認識し始めるという流れはとても美しいと感じました。恋愛モノは途中から盲目な共依存的関係に陥りがちですが、本作の2人はそういったこともなく、はお互いがお互いを知るうちに相手を思いやるようになっていき、視野が広がっていきます。恋愛映画でありながら、恋愛という枠を超えた人間としての在り方の理想を見せてくれたように思えます。

88IOもこう言ってる。

でも恋愛映画なんです

でも流石に真人間真人間してばっかりじゃクリスマスカップルに白けるので、ちゃんと恋愛映画っぽい描写や展開はあります。でも上記の通り人間関係の育みを丁寧に描写したからこそ、恋愛映画ならではのくさみは感じても、嫌悪感には繋がらない。その塩梅が取れているなあと感じました。

まとめ

「どうせクリスマスカップル最終兵器なんでしょ?」と言われたら「そうですね、でもあなたでも楽しめますよ。いい映画でした。」そう胸を張って言える作品でした。

コメント

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