雲のむこう、約束の場所:これこそ本家「セカイ系」

レビュー

自分には好きな映画監督が3人います。クリストファー・ノーラン、庵野秀明、そして新海誠です。

それぞれの監督作の中にも飛び切り好きな作品があるのですが、今回は新海誠作品で一番好きな作品である、『雲のむこう、約束の場(2004)』について語っていきたいと思います。

作品の立ち位置

この作品の立ち位置は前回紹介したノーラン監督の『メメント(2000)』とほぼ同じ。新海誠の映画として初めて大規模かつ一般的な尺で作られた映画が本作だ。

公開された2004年といえばセカイ系真っただ中。『エヴァンゲリオン(1995)』において火が付いたジャンル・セカイ系とは、主人公やその周りの人間関係が物語の中で次第に世界の趨勢と交わっていき、時には『世界か、彼女か』を迫るような展開になるアレです。最近だと『天気の子』なんかが当たるといわれている。

2000年代初頭はエヴァの影響もあってセカイ系作品が数多く登場し、最盛期とも呼ばれた時期だった。『最終兵器彼女(2002)』などは有名である。

本作も所謂「セカイ系最盛期」の一作として著名だ。

冷戦・領海侵入・ミサイル

新海誠作品に出そうにない、あるいはもう扱いそうにない話題が詰まっているのが本作の特筆すべきところだろう。特に武器関係がこんなに派手な作品はもう出ないんじゃないかなあ。『天気の子』の銃はあの一丁だけでも映画にとんでもないスパイスになっていたが、本作は銃は出るしミサイル出るし、爆発に巻き込まれるし、領海侵入してロシア語で警告を受けて銃撃戦になったり、そもそも北海道が日本じゃなかったりと、もういろいろ盛りだくさんである。

監督の若々しさを感じるストーリー

主人公と親友、そしてヒロインという三人構成なのですが、彼らは青森に住んでいて、海の向こうに見える日本ではない北海道の陸地に立っているとてつもなく高いタワーを見に行くのが夢という設定。

そのために主人公は飛行機まで作ってしまうし、普通に飛ばして北海道まで行ってしまう。高校生なのに。エンジンとかはなんか不発のミサイルから拾った設定とかになっているにせよ、とんでもない技術力である。

現在の新海誠映画のイメージでいうと、できそうにもないことをだんだんゆっくり現実味を帯びて実現していくような感じがあるが、本作には良くも悪くもそこに注力しない。やりたいことをストレートで描いたんだろうなあと感じさせる。

新海誠の『会えなくなったヒロイン』の原点

正確には『ほしのこえ』があるので本作のヒロインをこう定義づけるのは誤りかもしれないが、それでも本作のヒロインであるサユリはのちの新海作品に典型的な『会えなくなったヒロイン』の原点ということが言える。

冒頭の幼少期の描写では仲が良く、三人で仲良く遊ぶ描写があるものの、作中のメイン時間軸の中ではサユリはとある理由で主人公と”引き離された”状態になる。

セカイと引き離されたヒロインを世界を敵に回してでも取り戻すというストーリーは『君の名は。』や『天気の子』と非常に似ている。というか基本的な構造は変わっていないのだろうと思われる。

しかし、これは『秒速五センチメートル』にも言えることだが、昔の新海誠は基本的に取り戻したヒロインと結ばれない。これは冒頭が作中メインの時間軸の数年後で、一人で跡地を訪れるシーンから始まっていることから明白だ。

本作は作中のメイン時間軸で『セカイによって』会えなくなったヒロインを取り戻そうとするが、冒頭のシーンの効果でそれらはすべて回想にすぎないというメタ視点をうっすらと持ち続けることになるというところに真骨頂がある。

回想の中で語られる『セカイによって』会えなくなったヒロインと『自分や時間の変化で』会えなくなったヒロインの対比がいい余韻を残す。後者についてはほとんど語られないが、前者を徹底的に描いたがゆえに、後者への想像が膨らむのだ。結論を先に提示するのはある意味ノーラン的かもしれない。

こういった構造は『天気の子』の冒頭の語り口などで細々と続いてはいるが、ここまではっきりと対比させているのは本作の特徴だといえよう。

セカイ系そのもの

作中のメイン時間軸はほぼヒロインを取り戻すためのセカイ系的展開である。『世界か、彼女か』という命題はセカイ系の特徴である。例えば『天気の子』では『陽菜か、晴れか』という形で主人公が選択を迫られた。そして結果的に前者を選び東京は沈む。本作でもヒロインを選んだ結果・・・まあ観て確かめてほしい。

まとめ

古いアニメ映画なのでキャラクターデザインの古さは否めない。しかしながら今の新海誠につながるいろんなエッセンスが詰まっているし、とてつもなくきれいな背景作画も見どころだ。正直背景作画に関しては2004年当時としてはオーパーツだと思う。

新海誠は『君の名は。』の成功以来、ある程度フェチを捨てて大衆化した部分もあると思う。(もちろんフェチが残っている部分は多々あるが。)本作はある意味で『新海誠の原液』のような作品だ。だから自分は一番好きだし、見てほしいなあと思う。

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