「映画大好きポンポさん」という映画をご存知でしょうか。2021年に小規模で公開され、少しずつ公開館を広げて100館以上で上映されていた作品です(2021年9月現在では公開館は残す所わずかとなっています)。
私はこの作品を「映画好きのための映画」とまずは考えました。そして「一度でも夢を追いかけたことがある人」に見てもらいたい作品であると思います。
この記事にはネタバレを含んでいますので、未視聴の方はご注意ください。
感じたこと
まず感じることは、「制作陣が楽しく作ってること」だと思います。
感じること: 制作陣が楽しく作っている
このアニメの中では面白い演出やカットが、多く登場します。
ポンポさんがジーンくんを選んだ理由として「満たされない人間にしか良い映画は作れない。(あなたには映画以外に何もないから選んだ)」みたいなことを言うシーンがあるのですが、
・ 満たされない人間=×
→ 満たされる人間の表現として、Xが砂時計のように液体に埋められる
→ そこから一転して、Xが鉄格子に変わり、ジーンくんは鉄網に阻まれる
このワンシーン、言葉で言うと分かりづらいですがとても変わった演出でして、とても驚きます。(ぜひ映画館や配信、円盤でご覧ください)
また台本を読むシーンでは、
・本であるから二つ折り
→ 本をめくる描写
→ コーヒーが減っている描写
→ 時計を見ると時間が経っている描写
のように絵を半分に区切って時間の経過を表し、さらに時間を短くするという一石二鳥が成されていて、驚きました。
また面白いと思った演出は他にもあって、ナタリーがジーンくんの映画に出るとなって「えー!!?!?」となって、そこから巻き戻って冒頭に工事現場で働くナタリーのシーンに戻るというものがあるのですが、これが3点ぐらい良いところがありまして、
- 普通ならそこからナタリーの物語!として映画に出る!?の後の話へつながるのかなと思うのですが、このアニメでは巻き戻ってしまうということに意外性があります。途中で回想シーンをしないということがとても好きです。
- 巻き戻ることが効果的に使われていて、ジーンくんと並列的な物語が進んでいくのですが、それがなんというか伏線回収という感じがして、物語の中の新しい視点を感じることができます。
- そして物語は進んで「えー!!?!?」となったシーンを経て、次の物語へと進んでいくので、一般的な回想シーンをするより、逆になめらかに物語が遷移しているように感じます。
またこの映画では(ギャグアニメ並かそれ以上の)変顔が数多く登場するのも笑ってしまうところです。
コミカルさを意識していて、ただの主張を語るだけのアニメに終止させないよう、観客を楽しませようとしているところなのかなと思っています。
あとはポンポさんのマネするシーンでは受付嬢、おそらく中の声優はポンポさんの中の人とは違う方だと思うのですが、あまりに完成度が高くて、「え!?本物か!?」というレベルで笑ってしまいます。
このような感じで、制作陣が楽しんでいることで私達も楽しめるものになっています。
感じること: 監督の心
先程制作陣の楽しさが伝わると言いましたが、この作品の根底にはそもそも監督(平尾隆之さん)の心があるように感じます。
そもそも、この「ポンポさん」という作品は尖っています。
「良い映画には、すべてをなげうたなければならない」
映画以外にだって楽しみがあってもいいはず、生活があってもいいはず、大切なものがあってもいいはずなのに、この映画では強く印象付けられます。
この意思というものを全面に押し出すことは監督がやることだろうって自分は思っています。
さらに作品内作品で、ジーンくんが作品内作品の主人公と同じ気持ちになって映画を作っていきますが、これがまさにこの「ポンポさん」という作品でも行われて、監督もジーンくんと同じ気持ちになって作品を作っているだろうと感じます。
もし本当にこの作品の監督がジーンくんたちと同じように、映画以外すべてなげうっていたとしたら、それは映画のために生きていて、『監督』なのかなと思います。
(余談: ジーンくんはポンポさんという作品の主人公なので、主人公(であるジーンくん)が作品内作品の主人公と同じ気持ちになる…ややこしいですね!)
この作品の話を整理
一旦この作品の話を整理しましょう。
主人公は映画が好きで好きで堪らないジーンくん。素晴らしい監督であった祖父の意思を継いだポンポさんという映画監督の下で、助手として動いていたところ、映画の15秒ショートを任される。元々ポンポさんはジーンくんへ期待していたが、15秒ショートで才能を感じて、自分の脚本で映画を撮らせることにする。監督になったジーンくんは映画を撮影し、なんやかんやありつつも編集にこぎつけるが、なかなか時間に収まらない、しかしポンポさんの祖父と話すことで「自分の映画に足りないもの」を見つけ、ポンポさんに再撮影を申し出る。そこから(アランが活躍して) ジーンくんは強い意思で編集を行って、無事映画はヒットする。
以上のような感じです。(雑で申し訳ないです)
思ったこと
ちょっとだけ思ったこと
主人公たちが映画を撮影して良いシーンが撮れたときに、「お~~!!」となって主人公の体に電撃が走りますが、自分も撮影されたシーンを見て同じ気持ちになって、驚きを覚えました。
このような作品では視聴者と登場人物とのズレが度々起こるものですが、リンクしたものをここまで感じるとは思いませんでした。
また、この作品では編集するシーンが3回ほどあります。
- 15秒ショートを編集するシーン
- 撮影が終わって編集するシーン
- 再撮影を経て編集するシーン
演出でどうにか盛り上げようというのはわかるんですが、どうしても全く同じ部屋が3回出てくると、なんというか間延びみたいなものを感じてしまいました。
(余談: 当ブログのDureyさんは前半の撮影シーンに間延びを感じたそうなので、これは見方次第であるかもしれません)
考えたこと
@: 夢を追いかけたことのある人に見てほしい
「映画好きのための映画」と私は言いましたが実のところ、これはちょっとズレがあります。
主人公であるジーンくんは、映画が好きで好きで堪らない人間です。映画が好きすぎて毎日夜ふかしてますが、映画に関する”オタク”で作品内では右に出る者は居ないでしょう。そして映画監督の助手にもなっちゃって、今回は映画を作ってしまうという感じになっています。
映画が好きすぎる!!って人にはジーンくんと自分を重ねてしまう部分があると思います。ですが、自分は「夢を追いかけたことのある人」へ観てほしいと思います。
この作品ではジーンくんには「自分で映画をつくる」という夢が、ポンポさんには「自分が感動する映画を観たい」という夢、ナタリーには「女優になりたい」という夢が。
自分は、それぞれが努力して必死に掴み取ろうとする姿をかなり印象的に感じました。
夢を追いかけたけれど、その夢が叶わなかった人。夢を追いかけたけど、違う夢へシフトして今も夢を追いかけている人。(そして、夢を抱いたことのある人)
その夢を追いかけたことがある人にはそれぞれ必死に掴みに行こうとする姿を見て、自分自身の夢をもう一度思い出す、そんなきっかけになる映画だと自分は思っています。
ただ、夢を追いかけ初めた人にはもしかしたらまだ早い作品かもしれません。
また先程「監督の心」を感じると言いましたが、この夢みたいなものも監督の心の1片なのかもしれません。
(余談: 中2の弟と観に行きました。弟はあんまりしっくり来ていないようでしたが、まだ子供なのでまだ夢を追いかけ、挫折するみたいな経験がないのかもしれないなと、大人になるってことはそういうことを経るということでもあるだろうかと感じました)
夢の行き先
これは個人的な話ではありますが、当ブログの積雲さんが創られてるアニメを思い出しました。
積雲さんはまさに今夢を追いかけている人間です。
自作アニメは、脚本を書いて、絵コンテ書いて、原画書いて、…そして自分を追い込んで、などたくさんあります。そんな姿を身近で見ていると本当に努力だなと感じているところです。
この映画を見ているときに、それが思い起こされました。
自作アニメも「好きな人にしか作れない」ものだろう、なんて思っています。
主人公
ただ一心に作っていく。だからこそ、迷い、道をそれて、それでも前を向いていく。
そしてそれができるからこそ主人公だ。
終わりに
結論: 夢を追いかけたことのある人へ向けた映画だったと思う
このアニメであり映画である作品を見ると、自分は「動き出そう」という気持ちが湧いてきます。
というわけで、自分の感想はひとまずこれで。
「ポンポさんが来ったぞ~!!」
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